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黒いゴム片




小4のSちゃんは男の子に間違われるくらい、お転婆な娘だった。
学校まで歩いて一時間もかかる山の上の地区に住んでいて、野山を遊び相手に育ったので、ある意味当然だったかもしれない。

毎日々々、山の上の自宅から、雑木林沿いの道を通って、川沿いの国道を通って、お稲荷さんを祭っている神社の横を通って、田んぼの中の農道を通って、学校にかよっていた。

ある秋の日の下校中、Sちゃんは学校近くの道端で黒い物が落ちているのを見つけた。
3センチほどのゴム…らしき物。タイヤの欠けらか何かだろうか?

Sちゃんは、この黒いゴム片をおもしろ半分に蹴飛ばしてみた。
びよんっ、ばやよんっ、と不規則にバウンドする様は見ていて飽きなかった。
「今日は、これ蹴りながら家に帰ろ~っと。」Sちゃんは、そう決めた。
石に当てられたらテストは百点、水たまりに落ちたら私死亡、とかお馬鹿なルールを頭の中でいろいろと決めながら、ゴム片を蹴り続けた。

ゴム片は途中で何度か道から外れ、溝に落ちそうになりながらも、絶妙なバウンドでSちゃんの足元へと滑り込み、まるでSちゃんに蹴られるのを求めているように見えた。とうとう、ゴム片といっしょに、学校から田んぼを通って、お稲荷さんの所まで来てしまった。

お稲荷さんの鳥居の前まで来た時、ゴム片のバウンドが妙におとなしかった。
今までには見なかった面白みのないバウンド。Sちゃんは立ち止まり、磨り減ったのかなと思って、ゴム片を手に取ろうとしたが、すぐに手を引っ込めた!

ゴム片から、カマドウマのような長い脚が、わっさと生えてきた。
そして、耳鳴りがするようなカン高い声で「キィーーーーーーーーッ!」と鳴くと、鳥居をくぐって、神社の方に跳ねていってしまった。
山育ちで、いろんな虫に慣れていたSちゃんだったが、この時ばかりは女の子らしく悲鳴をあげてしまったという。

家に帰ってからSちゃんは、この出来事をお祖父ちゃんに話した。
農業を営むお祖父ちゃんは、怪訝な顔をして、「今年は、ダメかもしれんばい…」とぽつりと漏らした。
Sちゃんは意味が分からなかったが、寂しそうな祖父の顔が何だか悲しかった。

その年は台風の当たり年で、収穫前の稲が被害に遭い、近年稀に見る凶作だった。
Sちゃんは、ひょっとして自分が神社まで蹴っていったアレのせいではと気に病んだが、お祖父ちゃんは「おまえは関係無か。」と、カッカッと笑い飛ばした。
Sちゃんは可笑しくなり、お祖父ちゃんのマネをして、カッカッと笑った。


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2018-10-30 21:31 : こわい話 : コメント : 0 :
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